2012年5月31日木曜日

繊細な響きを求めて1

繊細な響きを求めて

より力強い響きを求めたイギリスに対し、
フランスでは、繊細なニュアンス、
柔らかい音色、連打の敏捷性といった、
ピアノの新たな表現性が探られた。
そして19世紀後半になると、
現代のピアノにより近い楽器が生む出される。

ショパンの時代
パリ時代(1831~49)のショパンが愛用していたのが、
フランスのピアノ、プレイエルとエラールだった。
プレイエル社は、カルクブレンナーやショパンなど
当時人気のピアニストたちの意見を採り入れながら、
羽のように柔らかいタッチ、ピアニッシモの繊細な表現にこだわり、
独自のピアノを生み出した。
これは、それまでのピアノ製作の歴史がより大きな音量を
求めてきたのとは、大いに異なっている。


したがってプレイエルの楽器は、決して大きくは響かなかったが、
少人数を前に演奏するのを好んだショパンにとっては、
その豊かなニュアンスゆえに、
エラールの改良が進んでも手放せない魅力があったようだ。
一方そのライヴァル会社エラールは、
1822年にダブル・エスケープメントという
近代ピアノ・アクションの原型を発明する。
これは、反復レバーを1本加えることで、
落下途中のハンマーが再度打弦するのを
可能にした装置であり、これによってトリルといった
装飾音や同音反復が容易に演奏できるようになった。
たとえばショパンの<子犬のワルツ>のような作品は、
こうしたエラールのピアノなしには生み出されなかったかもしれない。