演奏前の舞台。
客席のざわめきとは別世界のように、厳かに、凛と存在するピアノ。
そのたたずまい、気品が好き。
ひとたび、音が奏でられれば、空間が一体となり溶け合っていく。
そんな魔法の箱が、ピアノ。
学校の音楽室の片隅で、子供たちの喧騒の中で鳴るピアノ。
発表会の緊張の中に妙に光って見えるピアノ。
リビングで、いつしか弾かれなくなってしまったピアノ。
皆さんの日常の風景の中、思い出の断片が、
どこかに必ずあるはずです。
ピアノとともに。
楽器なのに、誰でも音が出せる。ネコが乗っても音が出る。
そんなとても身近なもの。
でもどうして、それほど簡単に音が出るのか、
意外と知られていません。
みんなが弾けるんだけれど、とっても難しいわけも。
ピアノという楽器は芸術品です。大変に高価なものです。
限られたプロフェッショナルが持つ値のつけられないような弦楽器を
除けば、いちばん高価な部類に続する楽器です。
だからといって、貴重な骨董品ではないのです。消耗品なのです。
そればかりか、なんと、生き物なんです。
ですから、皆様に大きな愛でもって、
大切にその使命を全うさせていただきたい。
ピアノ一台一台がもっている個性を、
全うさせていただきたい。
高級品だから使わないで飾っておこう
なんて、もってもほか。
大事に、機械部分には手が加えず、
そのままにしておこうなんて論外。
どんどん弾いてこそ、ピアノは喜ぶ。
そして、どしどしメンテナンスをする。
メンテナンス!これ、一番大切。
だって、調子を整えてもらわなければ、
細やかな芸術は奏でられませんもの。
あまりに近しい存在すぎて、
知らなかったことがいっぱい。
目から鱗がぼろぼろ落ちるはず。
そして、ピアノという魔法の箱が、300年にわたって
世界中を魅了してきた秘密を知れば、ますますその虜になることでしょう。